“中道”はなぜ選ばれなかったのか――変わる有権者の判断軸
はじめに
今日の投稿は、少し理屈っぽい話になる。
2026年2月8日に衆議院の総選挙が行われ、自由民主党が「圧勝」し、新しく結成された中道改革連合が「大敗」した。
実は、最初に中道改革連合が結成された時に、「中道政党」というコンセプトはなかなか良さそうだ、と思った。
今回の中道改革連合のやり方は、政治の分野の話ではあるが、ビジネスにおけるSTPマーケティングの考え方を類推すれば理解しやすい。
政治思想に関して、右派でも左派でもない、中間的な考え方を持つ層がかなりの数存在している、という想定を行い、自らを「中道政党」であると位置づけて、アピールを行う。
与党、野党の多くが、事実上の「右派」と「左派」に分かれている中で、「中道」あるいは「中道勢力」と自らを位置づけることは、有権者に対して自らの政党を「差別化」することにつながる。
しかし、残念ながら、私の予想はほぼ完全に外れてしまった。
中道改革連合の失敗は、マーケティングで言えば、「自信を持って売れると思って市場に出した商品が、ほとんど売れなかった」という事態に等しい。しかし、なぜなのだろうか。
その理由について考えてみたので、今日はその話をしてみたい。
1.敗北理由についての、世間一般の理解
中道改革連合の敗北の理由については、次のように言われている。
- 党名や政策が有権者に十分に伝わらなかった
- 合流してから選挙までの期間が短かった
- 他党との違いを十分にアピールできなかった
つまり、STPマーケティングをベースとして行われるマーケティング・ミックスの4Pの中でも、特に「プロモーション(Promotion)」が十分にできなかったことが敗北の主たる理由、ということになる。
しかし、プロモーションの失敗というだけの理由では、あれほどの大敗を説明することには無理がある、と考えられる。
それよりも、「高市首相率いる自由民主党」という「強力なライバル製品」が市場には存在していた、と考える方がより自然であろう。
しかし、従来型の政党であっても、前回並の議席数を確保した政党もあったわけであり、強力なライバル製品があっても、それなりに売れた「他社製品」もあったということだ。そう考えると、中道改革連合の不振は群を抜いていたと言っていい。
つまり、プロモーションの失敗や、強力なライバル製品の存在とは別に、「不振の理由」があったと考えるべきである。
2.大敗の真の理由とは
プロモーションよりも、「STP」自体に問題があった、すなわち「右派でも左派でもない“中道派”」をターゲット・セグメントとしたことが間違っていた可能性がある。
では、具体的に何が間違っていたのだろうか。それは、マーケティングの用語で言えば、「ポジショニング・マップの軸の取り方の間違い」ということになる。
繰り返しになるが、中道改革連合は、「右派」と「左派」、あるいは「保守」と「リベラル」という「政治思想の軸」を想定して、その“真ん中=中道”というポジションを考えたのだと私は推定した。
さらに言えば、食品の消費税減税は打ち出したが、財源はきちんと確保する、と主張していた。こう考えると、次のような軸で考えていたのであろう。
横軸:右派(保守)-左派(リベラル)
縦軸:赤字財政を辞せず-財政悪化はもたらさない
しかしいま、多くの国民にとっては、何が右派で何が左派なのかは、きっと問題ではないのだ。保守とリベラルの区別も重要ではない。
そのため、「自分たちは“中道派”である」というポジションを取って、有権者にアピールしようとしても、十分に理解されなかったと考えられるのだ。
そしてもちろん、「合流してから選挙までの期間が短かった」ために、「党名や政策が有権者に十分に伝わらなかった」ということも、大敗の原因の一つとなった可能性も十分にある。
3.中道改革連合はなぜ間違えたのか(仮説)
ではなぜ、中道改革連合は、今回のような重大な間違いをしてしまったのだろうか。
私も、XやYahoo!のリアルタイム検索などを、日中に定期的にチェックするようにしているが、そこでは「右」や「左」に偏った内容の投稿が目立つ。
そういう投稿を目にして、「中道」の存在の必要性を痛感したことも十分に理解できる。
しかし、それは必ずしも有権者全体の判断軸を反映しているとは限らない、ということだ。
それに対して、私が選挙の後に目にしたのは、ある方の次のような内容の投稿だった。
「近くにいる若い人たちが、『○○(→有名な右派政党)と、□□(→同じく有名な左派政党)のどちらに投票しようか悩んでいる』と聞いて驚いた」
考えてみれば、インターネットには「投票先マッチング」というサイトがあり、どの党に投票するのかわからない場合には、こうしたサイトを使って参考にする若者も数多く存在しているという。
そこには、「右・左」や、「保守・リベラル」などの、ベースになる政治姿勢は、あまり関係が無い。
そこに存在しているのは、個別の政策への自分自身の賛否であり、さらに言えば、総合的に見て改革をしてくれそうかどうか、という政党の姿勢への共感の有無だろう。
そうであれば、細身で華奢な身体で、「働いて、働いて、働いて・・・」と訴える姿に多くの国民が期待した、ということも十分に理解できる。
つまり、有権者の関心は、政治思想などの「理念」ではなく、「実行力」や「変化への期待」へ移っており、関心の軸は、「現状維持=古い政治スタイルの継続」なのか、それとも「現状を打破(する実行力)=変化への期待」に変わっていたと考えるべきなのである。
多くの有権者の関心の二軸を考えると、次のようになるのだろう。
横軸:現状維持(古い政治スタイルの継続)-現状打破(変化への期待)
縦軸:自分たちの利益優先(消費税減税)-未来への投資(消費税減税せず)
縦軸については、1つだけ消費税減税を主張せず、未来への投資を前面に打ち出した党があり、一定の支持を得た事実は、この軸の存在を示唆している。
中道改革連合は、「自分たちは“中道”だ」というポジションを取ったのだが、「現状維持=古い政治スタイルの継続」と、「自分たちの利益優先(消費税減税)」と理解されてしまったのではないか。
最後に
今回、期待を込めて市場に打ち出された「中道改革連合」という“商品”は、結果として大失敗に終わってしまった。
そして、同党の主張はきっと支持を得るだろうと考えた私の予想も、大きく外れてしまった。
中道は“理念の中央”であっても、“期待の中央”ではなかった。
今回の結果は、一政党の失敗というより、有権者の判断軸が「思想や理念」から「変化への期待」へと移りつつあることを示している。
そうであるならば、「中道」という概念そのものも、再定義を迫られている。