アリを飼ってみて分かった、いくつかの“真実”
はじめに
少し前に書いた日記で、「私はアリを飼育している」と書いた。そして、アリに関する記憶について、2つほど日記を投稿した。
実際にアリを飼ってみて、これまで当たり前だと思っていたことが、実は違っていたことに気づいたことがある。
そこで今回は、アリを飼育してみるとわかる、「アリに関するいくつかの“真実”」について書いてみたい。
ただし、一口に「アリ」と言っても、世界中に約22,000種のアリがいるそうだ。それらすべてに該当するような“真実”を書くことは、到底不可能である。
そこで、日本で身近に存在しているアリたちについて述べることにしたい。
1.「アリとキリギリス」はウソ?
アリを飼い始めてしばらく経ったあるとき、「あれっ!」と気がついて、我ながら驚いたことがある。それは、有名な「アリとキリギリス」には重大なウソがあるかもしれない、ということである。
当時、アリ飼育の同好者がいたが、その人にこのことを話すと、その人も「そう言われればそうですね! 気がつきませんでした」と言って驚いていた。
「アリとキリギリス」では、夏の間遊びほうけていたキリギリスが、冬になって食べ物が無くなってしまい、アリに助けてもらう、ということになっている。
ところが、私が飼っている、あるいはかつて飼っていた数種類のアリの巣の中を見ても、「貯蔵された食料」というものは見当たらない。アリたちは、巣の外からエサとなるものを巣の中に運び入れるが、それを貯蔵する、ということはしない。食べ尽くしてしまうか、あるいは食べ残した場合には、その食べ残しは巣の外に捨ててしまう。
なぜ、巣の中にエサをため込まないかというと、巣の中は高温多湿の世界であり、エサとなるものにはとてもカビが生えやすいからだ。
では、アリたちは冬の間はどうしているのだろうか。実は、アリたちは巣の中でじっとしていることが多い。動かないことで、余分なエネルギーの消費をしないようにして、冬を乗り越えるのである。
もちろん、すべてのアリがこのようにするというわけではない。中には、巣の中にエサをため込むアリも存在している。例えば、クロナガアリというアリは、植物の種子をエサとしている。このアリを飼う場合、エサを与えすぎると、巣の中にためこまれた種子が発芽してしまい、大変なことになることもあるそうだ。
キリギリスは草食なので、あの物語のアリがクロナガアリのようなアリだったら、話が合う、ということかもしれないが。
2.アリは甘いものだけが好きなのではない
アリが甘いものが好きである、というのはよく知られた話だ。実際、甘いものにアリが群がっている姿は、公園などでもよく目にする。
しかし、先ほど書いたクロナガアリは甘いものを食べないし、他にも甘いエサを好まないアリはたくさん存在している。
さらに、甘いエサを好むタイプのアリについても、甘いものだけを食べるわけではない。実は、タンパク質のエサを、甘いもの以上に好む。
タンパク質のエサを必要とするのは、幼虫を育てるためだ。肉や煮干しなどを食べることもあるが、日本で最も一般的なアリであるクロオオアリ、クロヤマアリなどを飼育する場合には、「昆虫」をエサとして与えることがいいと言われている。
実は、昆虫、すなわち「生きた虫」をエサとして与えることが必要とされることが、アリ飼育の一つの難しさにもなっているのである。
3.女王アリは、実は「女王」ではない
女王アリは、英語でも “Queen Ant” といい、「女王」という位置づけになっている。
しかし、実は女王ではない、ということが、アリを飼っているとわかってくる。
一般的なアリでは、女王アリには羽が生えている。そして、ある時に「結婚飛行」と呼ばれる飛翔をして、雄アリと交尾をする。そして、地上に降りて、羽を自ら切り落とし、土の中に潜っていく。
そして、まず何匹かの働きアリを産卵し、彼らに自らの世話をしてもらうとともに、巣の規模を少しずつ大きくしていく。
この後、女王アリは、自らの子供に世話をされながら産卵を繰り返す。働きアリの寿命は約1年間と言われているのに対して、女王アリは10年以上生きることもある。
そして重要なことは、確かに女王アリは、働きアリたちにとっては「母親」だが、決して「女王」、すなわち「上司」ではない、ということである。
つまり、女王アリは働きアリから世話をしてもらうが、彼らに命令を下したりする存在ではない、ということだ。
研究者によると、「何匹の卵を産むのか」ということも、どうやら働きアリたちが決めているらしい。巣のキャパシティや、エサの確保状況などを総合的に判断して、働きアリたちが決めているのだという。
女王アリは、「女王」と言うよりも、少々言い方は悪いが、アリを産卵するためだけに存在している「機械」のような存在だと言ったほうが、スッキリするのである。
終わりに
アリに関する“蘊蓄(うんちく)”を語りだすと、キリがなくなってしまうので、今回はこの辺にさせていただく。
「なぜ、アリを飼育するのか」と言われると、いくつかの理由があるが、大きく分けて2つの理由がある。
一つは、女王アリ一匹、あるいは女王アリと数匹のアリから飼育をはじめ、次第に巣が大きくなっていく楽しみが味わえること。
もう一つは、自分が作った巣の中で、アリたちが“くつろいでいる”ように見える姿を見ていると、なんとなく心が安らぐ気がすることだ。
そしてさらに言えば、これまで本や物語の中で知っていた「アリ」という存在が、少しずつ別の姿に見えてくる、ということがあるのかもしれない。
身近な生き物であっても、実際に向き合ってみると、思い込みとはずいぶん違う。
そのズレに気づくこと自体が、飼育の楽しみの一つなのかもしれない。